皆さんの会社にも必ず一人はいる、頭脳明晰で、常に「正しい」ことを言う部下。その指摘は、一見すると頼もしい一方で、なぜか周囲に後味の悪さを残すことがあります。この違和感の正体は、いったい何なのでしょうか。
先日、ある若手コンサルタントから、元同僚Aさんの話を聞きました。Aさんは、日報で上司の間違いを「正論」で指摘し続け、結果として上司の敵意と周囲の萎縮を招き、職場全体の活力を奪ってしまったそうです。
Aさんの行動は、本来の目的である「組織改善」ではなく、「相手を論破し、自らの正しさを証明する」こと自体が目的となる「手段の目的化」に陥っていました。そうなると、指摘はもはや「アドバイス」ではなく「攻撃」としか受け取られなくなります。
ではAさんはどうすればよかったのか。その「正しさ」を「組織の成長」につなげるために、どうすればプロフェッショナルだったのか。
例えば、Aさんは上司に下記のように接することはできたと思います。
①「質問」の形で気づきを促す
「部長、先ほどのA案について、私がまだ理解できていない点がありまして、B案ではなくA案を選ばれた背景や、ご判断の意図を、今後のためにぜひ教えていただけますでしょうか」
これは、相手を先生役にすることで敬意を示し、上司自身に判断のプロセスを振り返るきっかけを与えるアプローチです。
②「相談」の形で仲間になる
「部長、先ほどのA案で、将来的に考えられるリスクについて、少しご相談よろしいでしょうか」
「あなたの間違い」ではなく、「私たちの未来のリスク」という共通の課題として提示します。目的が組織改善にあることを明確にし、共に考えるパートナーとしての関係を築きます。
③「提案」の形で共に未来へ向かう
「部長、A案のご判断、承知いたしました。その上で、A案をさらに成功させるための追加アイデアとして、C案を補足するのはいかがでしょうか」
まずは上司の判断を肯定。その上で、その判断を起点とする価値ある改善案に持っていくことで、上司を否定せず、本人にも「気づき」が促すことができます。
これら3つの伝え方に共通しているのは、「組織改善という目的のために、相手に敬意を示しつつ、タイミングと方法を戦略的に選ぶ」という、プロフェッショナルの基本姿勢です。
「正しいこと」を言うだけでは、人の心は動きません。その正しさに、組織の未来を想う「思いやり」が必要なのではないでしょうか。
